[書評]世界で最も強力な9のアルゴリズム

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久しぶりに書評です。紹介する本は『世界でもっとも強力な9のアルゴリズム』です。

筆者は常々、こんなにもITが普及しているのにコンピュータサイエンスを学んでいる人材も少なければそれに対する危機感がIT業界に不足している、と考えています。ゆえにことあるごとに、なぜIT業界は「コミュニケーション能力」ばかりを重視した採用をするのかと疑問を呈しているのです。

本書の「はじめに」によると、なにもそれは日本に限ったことではないようで、『この10年の間に大学でコンピュータ科学を学ぶ学生は50%減っている』と述べ、懸念が表明されています。そして、本書がコンピュータ科学の一般向け科学書として貢献するだろうと述べられています。

解説されているアルゴリズムは現代のITに欠かせないだけでなく、5年や10年で廃れることはないであろう普遍性をもったものばかりです。本書を読めば、なぜZIPファイルにするとサイズが小さくなるのかや、httpがhttpsに変わったときに何がおきているのかを理解することが出来ますし、なぜそのような仕組みが必要なのかもわかることでしょう。

そして個人的には、あえて計算不能性にも触れている点に好感をもちます。クラッシュ検出プログラム(=バグ検出プログラム)の不可能性を説明し、計算(コンピュータ)によって出来ないことがあることを示しています。これはもちろん、チューリングの停止性問題の一表現と考えることができますが、小難しい表現を使うことなくそこまで深入り出来ている点は評価できます。さらに、それがもたらす実際上の問題について、大きな影響はないと結論づけています。その裏には計算機を超えた哲学的ともいえる深遠な世界が存在するのですが、その存在を匂わせつつ、実際上の問題はないといえる理由も挙げられています。

本書は、ソフトウェアについて解説した本でもなければ、ハードウェアについて解説した本でもありません。ソフトもハードも流行廃りがあります。その流行に左右されない基礎理論を解説した本です。エンジニアとして生きていくつもりであれば、読んでおいて損はない一冊です。

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